性格は,勧誘の相手方が出資をするか否かの意思決定 をするに当たって,特に,出資をしない旨の意思決定をするに当たって重要 な意味を有しているとは考えがたい。
すなわち,信用金庫からの貸付けを希 望する者は,出資の上記性格を認識していると否とにかかわらず,一定額の 出資をしなければ貸付けを受けることはできず,出資の上記性格を認識した からといって,出資を翻意することになるとは考えがたいから,出資の上記 性格は,信用金庫からの貸付けを希望する者にとってさしたる意味を有して いないと考えられる。
また,信用金庫から貸付けを受ける意思のない者は,高利の配当への期待, 懇意にしている職員に対する貢献,地域社会の発展への寄与等,様々な目的 により出資していると考えられるが,いずれにせよ,出資の上記性格を認識 したからといって,出資を翻意することになるとは考えがたく,出資の上記 性格は,信用金庫から貸付けを受ける意思のない者にとってもさしたる意味 を有していないと考えられる。
このように,出資の上記性格は,勧誘の相手方にとってさしたる意味を有 しておらず,勧誘の相手方が出資をするか否かの意思決定に大きな影響を及 ぼすこととなるとは考えがたいから,被告A職員には,出資の勧誘に際し, 勧誘の相手方に対し,出資の上記性格について説明すべき義務はなく,この 点に関する原告らの主張は採用できない。
出資のリスクに関する説明義務及び指導監督義務について 一般に,信用金庫に対する出資は,公開市場で取引される株式と異なり, 価格が変動するような性質のものではないため,総じてリスクの少ない投資 であるということができるが,リスクが全く存在しないわけではなく,信用 金庫が破綻した場合には出資金が回収不能となるというリスク(以下「回収 不能のリスク」という,信。
) 用金庫が破綻に至らない場合であっても,譲 受人が現れるか,信用金庫に対し,定款で定めるところによりその持分を譲 り受けるべきことを請求しない限り,出資金を回収することができないとい うリスク(以下「回収長期化のリスク」という。
)を有している。
適格退職年金制度
適格退職年金制度においては,掛金及び給付額の算定に当たって,あらかじめ,国債の金利水準の動向を勘案して財務省令で定める基準利率以上の金利(予定利率)を見込むこととされている(法人税法施行令附則16条1項5号,同条3項)。
そして,適格退職年金制度の創設後,いわゆるバブル経済の崩壊前まで,日本経済は概ね成長期であったため,いわゆるバブル経済の崩壊前に適格退職年金制度を採用した企業の予定利率は全て年5.5%に設定されていた。
すなわち,適格退職年金制度は,企業が積み立てた年金資産が年5.5%以上の利回りで運用されることを前提に掛金及び給付額が計算されている。
したがって,実際の年金資産の運用利回りが年5.5%を下回ると,当然積立不足が発生し,積立不足が続くとその累積額が増加する。
適格退職年金制度においては,積立金の不足の防止,解消について,企業が自由意思によって不足額を支払うことは許されておらず,1年当たりの額が積立不足金の合計額の35%以下に相当するような一定額若しくは給料の一定率の掛金,又は1年当たりの額が積立不足金の現在額の50%以下となるような積立不足金の一定率である掛金であって,これらのいずれによるべきかがあらかじめ定められた掛金を支払うことが認められているのみで(法人税法施行令附則16条1項7号),他には何ら定めがない。
しかし,上記の方法によっては,積立不足を解消することは困難である。
その一方で,給付額を減額することは厳しく制限されている(法人税法施行令附則16条1項11号)。
そこで,積立不足の拡大を解消,防止するためには,企業において,5年以内の一定期ごとに行う再計算時において,予定利率を引き下げ,予定利率を引き下げたことに反比例して生じる増加分及び積立不足分を填補するために生じる増加分を加味した額まで掛金を引き上げることによって,対処せざるを得ないこととなる(法人税法施行令附則16条1項4号,5号)。
しかし,いわゆるバブル経済崩壊後,資産運用の利回りが年5.5%を大きく下回って1%以下となってしまい,低金利・資産運用難の状況下で,中小企業は,保険会社等に支払う事務費すら賄えなくなり,積立不足の累積額は膨大なものとなっている。予定利率(年5.5%)と実利率との差が大きければ大きいほど,また積立不足の累積額が多額であれば多額であるほど,必然的に,積立不足の拡大の解消,防止のために引き上げられる掛金額も,それ相応にかなりの高額となる。
したがって,積立不足の拡大の解消,防止のための掛金の引上は,いわゆるバブル崩壊後の不況下でその存続自体も危ぶまれる中小企業にとって,更に重い負担を強いるものであり,その実施の可能性はほとんどなかった。
したがって,信用金庫の職員には,信義則上,勧誘の相手方に対し,回収 不能のリスク及び回収長期化のリスクについて説明すべき義務があると一応 いうことができる。
もっとも,出資に回収不能のリスクがあることを認識している者に対して は,あらためてこれを説明する必要に乏しく,勧誘の相手方がこの点に関す る説明を受けなかったとしても,特段の不利益を被ることはない。
また,出 資とは,特定の事業者に対して資金を拠出することを意味し,出資先が破綻 した場合に出資金が回収不能となることは,一般通常人において十分に了解 可能な事柄であると考えられるから,一般的には,信用金庫の職員が出資の 勧誘である旨を明らかにして勧誘している以上は,勧誘の相手方において, 回収不能のリスクを認識しているものと考えられる。
したがって,これらの 点を考慮すると,信用金庫の職員に回収不能のリスクについて説明義務が発 生するのは,勧誘の相手方が回収不能のリスクを認識しておらず,かつ,信 用金庫の職員において,これを認識し又は容易に認識し得た場合に限られ, それにもかかわらず,回収不能のリスクについての説明を行わなかった場合 に初めて,説明義務違反による不法行為が成立すると解するのが相当である。
また,回収長期化のリスクについても,回収不能のリスクの場合と同様, 勧誘の相手方においてこれを認識している場合には,この点に関する説明を 受けなかったとしても特段の不利益を被ることがないということができる が,回収長期化のリスクは,回収不能のリスクと異なり,広く一般に認識さ れている事柄であるとまではいいがたい。
したがって,信用金庫の職員には, 原則として,回収長期化のリスクについて説明すべき義務があり,これを怠 った場合には,説明義務違反による不法行為が成立し,例外的に,勧誘時の 言動等により,勧誘の相手方において回収長期化のリスクを認識していると 認められるような特段の事情がある場合には,回収長期化のリスクに関する 説明義務を免れると解するのが相当である。
もっとも,回収長期化のリスク に関する説明がなされなかったことにより発生する損害とは,回収長期化の リスクを知らされなかったがために,払戻請求が遅れ,自己が予定していた 期限内に出資金の回収ができなかったことにより発生する損害(例えば,貸 金債務の返済のために払戻請求をしたところ,貸金債務の返済期限内に出資 金を回収することができなかったため,貸金債務の返済が遅れ,遅延損害金 の支払債務が発生した場合など)を意味し,信用金庫が破綻したことにより, 出資金が回収不能となったという損害は,回収不能のリスクに関する説明を 怠ったことによる損害であるとはいえても,回収長期化のリスクに関する説 明を怠ったことによる損害とはいいがたい。
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